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1.「オマエみたいなゴミ、生むんじゃなかった。」 " I shouldn't have had you garbage."

Author: ADPh.D.
last update Last Updated: 2025-12-21 17:00:43

 「うまれてきて、ごめんなさい。」

 ◇◆◇

  ある日、ある昼下がりのこと。

 パンドラ公国を治める、ミルヒシュトラーセ家の持つ邸宅で、|陽炎《ようえん》|陽炎《かげろう》は|億劫《おっくう》であった。彼はこの昼にミルヒシュトラーセ家の次期当主候補の1人と会うことが決まっていた。

 そう、|決《・》|ま《・》|っ《・》|て《・》|い《・》|た《・》。|其処《そこ》に彼の希望は存せず、故に億劫であった。親たちは|陽炎《ようえん》家の次期当主とミルヒシュトラーセ家の次期当主|候《・》|補《・》とは幼い時分から交流をもち|竹馬《ちくば》の友となるのが代々の伝統だ、などと|宣《のたま》っている。

 しかし、その実、|昨今《さっこん》彼らは単にどの候補がこの先実権を握ってもいいようにそれぞれの候補にいい顔をしておくという、日和見の方針を続けているだけだ。

 まだ|齢《よわい》にして4歳のかげろうからすれば、姉に突然、

 「明日お姉さまのお友だちとその弟ちゃんに会いにいきましょう?」

 と言われて半ば強引に連れてこられてきただけである。かげろうからしてみれば、今日はせっかく1日敬愛する姉さまと2人でいられるはずが、とんだ邪魔が入ったものである。

 故に億劫だった。今すぐにでも帰りたかった。帰って遊びたかった。正面にある大きなステンドグラスを眺めながら独り待つことにも|辟易《へきえき》してきた。もう後ろにある扉からでてってしまおうかな――と考え始めていた。その時2人を呼びに行っていた姉が姉の友人であろう1人だけを|具《ぐ》して帰ってきた。

 ◇◆◇

 「――いやぁ、ごめんごめん。なかなかアイちゃんが捕まらなくてねー」

 姉が朗らかにいう。随分気の置けない友人のようだ。

 「人の弟を動物みたいに言うな。」

 姉の友人であろう、茶色いおさげ髪を二つ結びにして肩に垂らしている、生真面目そうな女の人がいう。

 「|ま《・》|だ《・》|性《・》|別《・》|も《・》|定《・》|ま《・》|っ《・》|て《・》|な《・》|い《・》|4《・》|さ《・》|い《・》からしたら、私たちみたいな|成《・》|人《・》|一《・》|歩《・》|手《・》|前《・》|の《・》|6《・》|歳《・》は、恐ろしいのだろう。特にうちの弟は姉2人としかまだまともに話せんしな。」

 「えー!お父さん、お母さんとも?」

 「……ああ。お前なら知っているだろう?|家《うち》は――」

 そう言いかけて、かげろうを|一瞥《いちべつ》したその人は、姉さまに|催促《さいそく》した。

 「――そんなよしなし事よりも、今日はお前の弟を紹介してくれるんじゃなかったか?さんざん騒いでいただろう。」

 それを受けてお姉さまが待ってましたとばかりに、|嬉々《きき》として語り始めた。

 「そう!そうそうそう!!遠からんものは音に聞け!近くば寄って目にもみよ!これが!この私!|不知火《しらぬい》|陽炎《かげろう》連合の次期藩主|不知火《ふちか》|不知火《しらぬい》の弟にして~|陽炎《ようえん》家の次期当主!|陽炎《ようえん》|陽炎《かげろう》くんでーす!!!かっこいい――!!拍手拍手!」

「「ながいし、うるさい」」

 お姉さんと一緒のことを言ってしまい、顔を合わせて笑い合う、雰囲気よりはこわくないひとかも。

 「えー。でもちゃんと伝わったでしょー?」

 「あぁ、お前がどれほどかげろうくんを好きかってことがな。……まぁいい、|此方《こちら》も自己紹介だ。

 まず私がこのパンドラ公国を治める、ミルヒシュトラーセ家次期当主|候《・》|補《・》|の《・》|1《・》|人《・》、シュヴェスター・|エレクトラーヴナ《エレクトラの娘》・フォン・ミルヒシュトラーセ、フルネームは長くて覚えずらいから取り合えず、個人名がシュヴェスターとだけ覚えてくれたら。宜しく。」

 そこでシュヴェスターさんがため息をつく、ほら、と言いながらやさしく自身の後ろに隠れていた(ずっと隠れてたのかこいつ、さっさと|面通《めんどお》しをして帰らせてくれよ……。おれより随分と|上背《うわぜい》も|体格《たいかく》も小柄な子供を私の前に押し出した――

 ◇◆◇

 ――その瞬間、――その刹那だった。おれが目を覚ましたのは――。

 おれがこの世に、彼のいるこの世界に――生まれ落ちたのは――。

 その子は(もうそいつとは呼べなかった、心の中でさえ)また引っ込み、シュヴェスターさんの後ろで彼女の服に硬くしがみつくように立っていた。その子の後ろにある大きなステンドグラスからの逆光で顔がよく見えない。

 彼の姿をはっきりとみたくて、彼がおれの世界に生きていることを確かめたくて、足を動かそうにもいうことをきかない。もう億劫なんかじゃない、これは|惧《おそ》れだ。|暫《しばら》くおれもその子も動けないでいると、シュヴェスターさんが呆れたように笑いながらその子の背をおす。

 ――どうかお隠れにならないで、貴方が確かに生きているということを教えてくれ。貴方の|光明《こうみょう》をどうかおれの|眼《まなこ》に。

 その子は押されるや|否《いな》や、今度は|不知火しらぬい《おれの姉》の背中にもっと強く抱き着き、姿を完全に隠してしまった。しかし、おずおずと所在なさげに手を胸の前で握りしめながら、一歩こちらに近づいた。おれと彼を狭い暗黒世界に封じ込める|岩戸《しらぬい》はもう何処にも存せず、ただ彼だけが|其処《そこ》に在った。

 |漆《うるし》のような腰まである黒髪、|華奢《きゃしゃ》な肩、新雪の|如《ごと》く輝く白い肌、かなしいほどにうつくしい花の|顔《かんばせ》、そして、美しく|蒼空《そら》色だがそれでも確かに太陽の光を思わせる輝き帯び、はにかみをたたえたその|眼《まなこ》。サファイアのようなその瞳。

 彼を認識したときの、|広大無辺《こうだいむへん》の光明は、おれの全生涯を貫いた。色のないこれまでも、どうでもよかったこれからも、この|刹那《せつな》に、最初から全てのものが自明だったかのように定義された。

 「……っは、はじめましてっ……わたくしの、なまえは、アイ・エレ……じゃなくて、えっと、アイ・ミルヒシュトラーセと申しますっ」

 鈴の音の声。続けて言う。

 「貴方様のような高貴な|御方《おんかた》の御目にかかる光栄っ、きょ……|恐悦至極《きょうえつしごく》にございますっ。わたくしのようなものが――」

 おれは叫んでいた。|わ《・》|た《・》|く《・》|し《・》|の《・》|よ《・》|う《・》|な《・》|も《・》|の《・》、彼がこれ以上自身を下げる物言いをすることが許せなかった。

 「もし、うつくしきおかた、花のように可憐な!尊き、貴方!この|僕《やつがれ》と親交を結んでは頂けぬか!どうか!いや、生涯の信仰を貴方に――!」

 突然のおれの告白に彼が|狼狽《ろうばい》し、びくりと跳ね|シュヴェスター《かれのあね》の服にしがみ付くのを遠いことのように認識していた。だが止まれなかった。

 「――|僕《やつがれ》は、おれは――!」

 さらに|宣誓《せんせい》を続けようとしたが、|お姉さま《じゃまもの》が割り込んでくる。その声で、彼以外の存在がこの世に在ることを思い出した。

「はーい、かげろうくん急にはしゃぎすぎー。アイちゃんがこわがってるでしょー。」

 |惧《おそ》れ多くも彼の頭を撫でながら言った。

「いやはや驚いた……が、無理もないことか。」

 |シュヴェスター《かれのあね》も突然のおれの|豹変《ひょうへん》にいくらか面食らったらしい。だがこのような状況に慣れているようでもあった。

 「|アイ《おまえ》もいい加減慣れろ。人々がお前の容姿を|誉《ほ》めそやすたびに私に隠れるな。」

 そういって苦笑しながら、けれども愛おしそうに、|未《いま》だしがみついている彼のぬばたまの|翠髪《すいはつ》に指をすべらせる。

 「まーまー、かげろうくんが大きな声だすからだよねー。」

 「お前が言うな。初めてこいつに会ったとき、天使だなんだのとうるさかっただろうが。」

 「しょーがないでしょ!こんなにかわいい子|人《・》|間《・》|だ《・》|と《・》|は《・》|お《・》|も《・》|え《・》|な《・》|い《・》でしょ!ほら!アイちゃん、こっちこっちー」

 「……は、はいぃ……。」

 「人の弟を犬猫みたいに扱うな。こいつは人間だ。動物や天使じゃない。」

 しらぬいがおいでおいでと|手招《てまね》きすると、彼は素直にそれに従う。頭が冷えてきた。|得心《とくしん》がいった。昔からおれのことを、かわいいかわいいと|煩《うるさ》かった姉が、少し前の|時分《じぶん》から、おれをかっこいいと|形容《けいよう》するようになったのはこういうわけか。

 ――いや、そんなことより。

 彼をもう決してこわがらせないように、こんどはできるだけやさしい声色で。

 「あの、おどろかせてしまって、もうしわけない。|僕《やつがれ》の名は|陽炎陽炎《ようえんかげろう》。先ほどのお返事をいただければ――。」

 おおきなかわいらしいくりくりの瞳を見開いて、彼が|抱《いだ》かれたまま答える。

 「……さきほどのおへんじ?……っ!」

 みるみる彼のやわらかそうな、朝のように白い|頬《ほほ》に|茜《あかね》が射す。それをかわいいなと思って眺めていると。

 「さきほどの、とはつまり、わたくしとお、おともだちになってくださるということでしょうか?」

 おずおずと期待と不安が入り混じった声色で彼がいう。

 「はいっ!おれとともだちに!」

 ぱあぁ……と彼のかわいらしい|面《あもて》が|喜色《きしょく》で彩られる。かわいいって言いすぎてるな、おれ。言ってはないか。

 「はいっ!ようえんさま!わたくしのことは、あい、とお呼びください!」

 「いえ、ミルヒシュトラーセさま!貴方様の家格はこのパンドラ公国で至上のものです。だからどうかおれの、|僕《やつがれ》のことは|唯《ただ》の、|陽炎《かげろう》とでもお呼びください。」

と、おれとミルヒシュトラーセさまが、お互いを|敬《うやま》った|呼《よ》び方をしようと、わちゃわちゃとしていると、コホンっと|咳払《せきばら》いの音がした。

「ところで……私もミルヒシュトラーセなのだが?」

 彼の姉がそっと彼を後ろから抱きすくめる。

「わたしも|陽炎《ようえん》さんだよー」

 おれの姉がぎゅうぅっとおれに後ろから抱き着いてくる。

「お前の|名字《みょうじ》は|不知火《ふちか》さんだろうが、まぁ何にせよ――」

「――家名だと誰のことかややこしいよー」

 おれたちの頭の上で姉たちが会話する。

「ああ、|甚《はなはだ》だややこしいな。」

 |不知火《おれの姉》と|シュヴェスター様《彼の姉》がニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら、それはもう|空々《そらぞら》しくおれたちふたりの頭の上からことばをふらせる。

 おれはなかば|捨鉢《すてばち》になって、|其《そ》れでも、決して彼を怯えさせないように、その名を柔らかく、言った。

「……アイ様」

 ――彼と目を見合わせる、恥ずかしさからか|茜《あかね》の差した顔――まんまるな|蒼穹《そうきゅう》の瞳に、|天《あめ》の|泪《なみだ》を張らせながら――彼は言った――。

「かっかげろうさま……」

 彼の唇から与えられたその|福音《ふくいん》がはじまりを告げる。|1《・》|人《・》|の《・》|友《・》|を《・》|つ《・》|く《・》|る《・》|と《・》|い《・》|う《・》|偉《・》|業《・》なしえた人間への歓喜の調べが近づいてくる――。後ろのドアを|運《・》|命《・》が|忙《せわ》しなく叩いている音が聞こえる――。

 ◇◆◇

 そのあと|暫《しばらく》く二人はこどもらしいおままごとや、たたかいごっこなど(かげろうはフリですらアイに攻撃できなかったが)の|児戯《じぎ》に|戯《たわむ》れ、姉たちは座って紅茶を飲みながら|微笑《ほほえ》ましそうに見守っていた。

 次第に子どもらしい遠慮のなさで、アイの|陽炎《かげろう》に対する敬称もくだけてきた。学校からの帰り道、名前しか知らぬクラスメイトに当然の権利のように話しかけ、|三叉路《さんさろ》で別れる時には、もう親友になっているような、子どもにしか持ち得ない無邪気な気安さが|其処《そこ》にはあった。

「アイ様が大切に思っているものは何ですか?おれもそれを大切にすると誓いましょう。」

「……あいがいちばんだいせつなもの……あいがいちばんすきなもの……それはおかあさまです!やさしくて、あたたかくて、あいを大切にしてくださるのです!あいはおかあさまがいちばんたいせつです!もちろんおとうさまも!おねえさまがたも!おにいさまも!それからそれから、いもうともです!」

「成程、母上様……エレクトラ様ですか、それとご家族……あい様はとてもご家族が好きなのですね。」

「はい!いちばんだいすきでっ、たいせつでっ」

「ふふっ……よく分かりましたとも。」

「もちろん、かげろうさま……かげろうもっ……!」

「アイ様――」

「よかったね〜お姉ちゃん?アイちゃんが好きだってさ〜。かげろうくんは最近照れて言ってくれないからな〜反抗期かなぁ?」

 しらぬいが思案するように言った。

「ふっ……羨ましいか?」

 シュヴェスターが勝ち誇ったように返す。

「わ〜うざーい。」

 「アイのやつ姉離れをしろと|再三《さいさん》いっているというのにまったく……しょうがのないやつだ……。」

「……顔が呆れてる人の顔じゃないんだけど……それにしても、あいちゃんって……お母さんっ子なの?」

「ふっ……まぁ、お母様は素晴らしいからな……!何よりも第一に、お優しく――」

「こいつもか……」

 シュヴェスターが不変の真理であるかのように答え、|不知火《しらぬい》が呆れ顔で言う。お経を読むようにすらすらと母を称えるシュヴェスター、しかし坊主の|読経《どっきょう》はそれを介さぬ者には往々にして聞き流されるようで、しらぬいは友を無視し抜き足差し足で背後からアイに近づき、突然ばっと抱きしめた。

「きゃっ!」

「あいちゃーん!しらぬいさんはー?すき〜?」

「えっとあのっ」

「ほら〜、す〜?」

「……?……っ!……きぃー……す……きです。しらぬいさんもっ。」

「わ〜うれし~。」

「無理やり言わせたな……人の弟を脅すな。」

 シュヴェスターが呆れたように言う。

「シュヴェスターは最近いってくんないからな〜。知ってる?今じゃアイちゃんにべったりだけど、ちっちゃい頃はいってくれたんだよ〜?反抗期かなぁ〜?」

「誰が反抗期だ誰が」

「あねえさまのちいさいころ……」

 ◇◆◇

 アイがミルヒシュトラーセ家別宅への、かげろうは|陽炎《ようえん》家への、それぞれの帰路を歩みながら、それぞれの姉と手をつなぎながらこんなことを話した。夕日に照らされ、|其処此処《そこここ》から|夕餉《ゆうげ》の匂いが漂う、帰り道。

「アイ、今日はどうだった?|半《なか》ば強引に、お前にはじめての友を得させようとしてしまったが……なんだ……その……楽しかったか?」

 シュヴェスターが何時もの無表情で、でも少しおっかなびっくりという|声色《こわいろ》で|尋《たず》ねたが、アイは姉の|曇天《どんてん》を晴れ渡すように快活な声で答える。

 「はい!あいはとてもしあわせでした!おねえさまたちのおかげです!ありがとうございます!」

 「……そうか……。」

 姉はいつも通り、彼女を知らぬ他人が|一瞥《いちべつ》すれば無感情な軍人だと評するであろう、表情に乏しく厳しい雰囲気を|醸《かも》しているが、|安堵《あんど》しているらしいことが弟には分かった。……それが弟を|慮《おもんぱか》ってのことだとも。そして、こころがぽかぽかあたたくなる。

 「ふふっ……おねえさま。」

 「あぁ……なんだ?」

 「うふふっ……おねえさまおねえさま!」

 「ふっ……なんだなんだ。」

 「あはっ!おーねーえーさーまー!」

 「ふふ……なーんーなーんーだー?」

 シュヴェスターがアイを抱きしめながら、長い黒髪をわしゃわしゃとなでまわす。アイがきゃーっ!といって逃げ出そうと、でもうれしそうにしている。今度はこしょこしょとくすぐられ始めたので、あははっと笑い出す。やわらかな夕日が、2人の帰路に|仲睦《なかむつ》まじい影をながくのばす。

 シュヴェスターは下に向かって、アイは上に向かって伸ばした手が繋がれる。アイがつないだ手をゆらゆらと、かるくゆらしながら歩く、そのやわらかな感触から、シュヴェスターは弟の幸せを確かに感じていた。

 今日はここで、「友もできたことだしはやく姉離れしろ」という|魂胆《こんたん》だったが、どうにもその言葉が舌のうえで居座って出てゆかない、うそが嫌いで、思ってもいないことを言うのは苦手だからだろうか、それともほんとうに離れがたいと感じているのはアイのほうではなく――

 美しくやわらかな|頬《ほほ》を紅潮させながら、興奮冷めやらぬ様子で今にも走りださんばかりなのに、姉の左手を決して離そうとはしない弟が、とてもいじらしかった……いとおしかった――。

 ◇◆◇

 ――かげろうが姉とつないでいた手を離し、祈るように自らの両の手を組み合わせて、叫ぶ。

 「おれは|果報者《かほうもの》です!まさかあのように尊き|御方《おほんかた》がこの世に存するとは!あの|う《・》|つ《・》|く《・》|し《・》|さ《・》!|こ《・》|の《・》|世《・》|の《・》|も《・》|で《・》|は《・》|な《・》|い《・》!あぁ、感謝しますよ。お姉さま!」

 |神《・》|が《・》|か《・》|り《・》にでもなったように、そうまくしたてる。離れた手のひらの体温から、お姉さまお姉さまと自分にべったりだった弟の、姉離れを感じて一抹の寂しさをしらぬいは感じていた。

 「んん~、かげろうくんにはあいちゃんはすこし魅力的すぎたかな~。」

 弟の|回《・》|心《・》を目の当たりにして、しらぬいは独りごちる。

 「なにを仰います!おれはアイ様と|邂逅《かいこう》した瞬間に目を覚ましたのです!これまでの|時《・》|分《・》おれは眠っていたのです。今なら世界が見える!|太陽《あいさま》の光明に|依《よ》って!おれは世界を見たのです!おれの全生涯を貫くアイ様の光明を!」

 「そうだね、ズバリ言い当ててあげようか?……|雷《・》|に《・》|打《・》|た《・》|れ《・》|地《・》|面《・》|に《・》|投《・》|げ《・》|出《・》|さ《・》|れ《・》|た《・》|よ《・》|う《・》|な《・》|衝《・》|撃《・》を受けて、今まで|盲《・》|い《・》|た《・》|目《・》|を《・》|し《・》|て《・》|い《・》|た《・》、かげろうくんの|眼《・》|か《・》|ら《・》|鱗《・》|が《・》|落《・》|ち《・》|て《・》、光をその瞳に取り戻した。といったところでしょう?

 (でもかげろうくんはむしろ、アイちゃんに逢ったせいで|盲目《もうもく》になっちゃったみたいだけど。)」

 「そう!まさに!よくお分かりですね?お姉さま!」

 「そりゃあねぇ~、私も初めてアイちゃんに会ったとき、似たような感覚に|陥《・》|っ《・》|た《・》からね。」

 ――ただ、私は既に|性《・》|別《・》|も《・》|決《・》|ま《・》|っ《・》|て《・》|た《・》し、|も《・》|う《・》|す《・》|ぐ《・》|成《・》|人《・》|す《・》|る《・》|6《・》|歳《・》だし、|自己同一性《アイデンティティ》もある程度確立してた。

 ――でも、|か《・》|げ《・》|ろ《・》|く《・》|ん《・》|は《・》|違《・》|う《・》、これは、すこし、|あ《・》|や《・》|う《・》|い《・》な――。樹木の|年輪《ねんりん》の内側に巻き込まれたその信仰は、必要な時に取り除くことができるんだろうか?

 ――何にも興味を示さないかげろうくんの世界が少しでも広がればとか、|不知火《しらぬい》|陽炎《かげろう》連合とパンドラ利権を一手に|牛耳《ぎゅうじ》るミルヒシュトラーセ家とのパイプを作っておければとか、いろいろと思惑はあったけど……。

  「……すこし|逸《はや》ったかなぁ」

 ◇◆◇

 ――「なんにせよ、友ができてよかったな、アイ?」

 ――「まぁでも、アイちゃんとおともだちになれてよかったね?かげろうくん。」

 「はい、はじめてのおともだちです!あいはうれしいです!」

 「いえ、アイ様がおれを|供《とも》としてくださったのです。」

――こうやって|あいに、かげろうさまのようにすてきな、

 ――はじめての|お《・》|友《・》|だ《・》|ち《・》ができました!

 ――こうしておれは彼を|信《・》|仰《・》するに至り、

 ――彼はおれを|供《・》としたのであった。

 ◇◆◇

「こんばんは、シュヴェスター。」

|仲睦《なかむつ》まじく歩いていた|アイとシュヴェスター《姉弟》に、別宅のほうから歩いてきた者が声をかける。その挨拶で、もう随分と夜が更けってあたりが暗い夜の|帷《とばり》に閉ざされていることに、アイだけが気づいた。アイにはそのひとが夜を引き連れて歩いてくるように感ぜられた、その者の前には辛うじて道が見えるが、後ろには昼の|残穢《ざんえ》さえないようだった。

 その者を認めた刹那、姉弟は弾かれたように、駆け寄った。姉はその大きな歩幅で早々と、弟はそのちいさなあしで、しかし懸命に、うれしそうに。

 「「……!おかあさまっ!」」

 その女の名は、エレクトラ・アガメムノーンナ・フォン・ミルヒシュトラーセ。当代のミルヒシュトラーセ家当主にして、パンドラの大地を治める者。そして、シュヴェスターとアイが、|こ《・》|の《・》|世《・》|に《・》|存《・》|す《・》|る《・》|何《・》|よ《・》|り《・》|も《・》|愛《・》|す《・》|る《・》|母《・》|親《・》でもあった。

 「シュヴェスター、いつもアイの|御守《おも》りをありがとうね、もう暗いから一緒に本宅に帰ろう?手を繋いでさ、ほら。」

 そう言って娘に手を差し伸べる。それにこたえ、シュヴェスターは先ほどまでアイと繋いでいた手を解き、しっかりと離さぬように母と結ぶ。エレクトラの|シュベスター《自身の娘》への声はとてもやさしく、あたたかい声色とやわらかい表情から、慈愛に満ちた心根であることが伺える。アイはできるだけおかあさまのそばにいたくて、かけよったが、どうしてよいかわからずもじもじしていた。すると――。

「……|アイ《テメェ》、|癪《しゃく》に|障《さわ》るからその気色のわりぃ髪と|面《ツラァ》二度とみせんなつったよな?あぁ?」

 アイの全存在を切り裂く、つめたい刃のような声がした。アイは慌ててあやまる。

 「ご、ごめんなさっ――もっもうしわけありません!このように|穢《けが》れた身を御身の前に晒し、お目を汚してしまい――」

 「黙れ、|耳障《みみざわ》りな声で騒ぐな、気持ちわりぃ。さっさと仮面をつけて|外套《がいとう》をかぶって、そのきたねぇ姿を隠せ、眼が腐る。」

 「は、はい!……ただいま!」

 アイが泣きそうになりながら、しかし決して泣いてより気分を害することがないように、必死に涙を|堪《こら》えながら答える。

 「きめぇからしゃべんなつってんだろ、見た目だけじゃなく頭まで悪いとくらぁ終わってんなぁ、お前みたいまゴミ、生きてる――」

  「――お母様!」

 |シュヴェスター《あね》が弟に助け舟を出すように話に割って入った。

 「お母様、もうあたりの闇も深くなって参りました。本宅にいち早く戻ってお父様やお兄様たちと|夕餉《ゆうげ》といたしましょう。」

 「……ああ、そうだな、さっさと帰るとするか、あまり|家《・》|族《・》を待たせるもんじゃないしな。」

 ◇◆◇

 母と姉は手を繋ぎながら、|家《・》|路《・》についた。アイは仮面をしっかりつけ、華奢な体躯にはとても大きく、膝の下まで隠れる外套のフードを深くかぶり、できるだけその|汚《きた》らしい身体を隠そうとする。そしてフードの端をそのちいさな両の手でぎゅっと握りながら、独りで下を向き、別宅への|帰《・》|路《・》についた。

 真っ直ぐな一本道の上、弟は夜の闇の方に、母と姉は家の光の方へ、反対方向に歩き始め、少しずつ距離が離れる。

 それでも、だいすきなおかさまのこえをすこしでもきけたならと、みみをすませていたあいには、きこえた。きこえてしまった。

  おかあさまがはきすてるようにいったその、おかあさまのこころがこもったその、だいすきなおかあさまからあいにむけられたその、ことばが――。

 「オマエみたいなゴミ、生むんじゃなかった。」

 ◇◆◇

 ――アイの死の報を聞いた人々は、親しい人の死や|重篤《じゅうとく》な病気を知ったときの、ある|普遍《ふへん》的で奇妙な感覚に陥っていた。つまり、死んだり病気になったのが、|自《・》|分《・》|で《・》|は《・》|な《・》|く《・》|て《・》|よ《・》|か《・》|っ《・》|た《・》という|安堵《あんど》である――

  ――|此《こ》れは、アイが夢をかなえて、あいが死に至るまでの物語だ。

 ◇◆◇

 アイは|俯《うつむ》いた。

 そして“自らが|穢《けが》した大地”に向けて、

 ……“自分にとっての|世界の全て《ははおや》”への言葉を|溢《こぼ》した――

「うまれてきて、ごめんなさい。」

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    「あっ……ミルヒシュトラーセ様は、お弁当なんですね。」 「はい。お料理は好きなんです。」 「あっ、えっ……あっ、ご自分で作られているんですか?貴族なのに?」 「は、はい……やっぱり変ですかね?でも学校に通うようになって、おねえさまが毎日おいしかったぞって言ってくれるのがうれしくて。」 「あっ……変じゃないです!うちも畑仕事の合間に自分で作ったありあわせのモノを食べたりしまし、します、しますし!」 「そうなんですね!」 えっ、かわいいだけじゃなくてお料理まで!?できらぁ!!てかまじおいしそうだし、|彩《いろど》りもすげー、食わせてくんねーかなぁ!?あわよくばあ~んしてくれ!!いや落ち着けアルターク。アルターク・デイリーライフ……。クールに行くんだ。Be cool Stay cool……。てかぜってぇお裁縫も家事もできるじゃん!!貴族なのに!!貴族なんて面倒ごと全部使用人任せだから、料理ができるとか逆に恥ずかしいことって言ったの誰だ!?おれがぶっ飛ばしてやる!!ええー、お嫁さん検定1級!!この子、私のお嫁さんに決定!!!Foo~! 「あの、アルターク様。」 天使が両手を合わせて不安げにこちらを見上げている!なんだなんだなんだ!? 「あっ……どうされましたか、ミルヒシュトラーセ様?」 私、話始めに、絶対『あっ』ってついてるんですけど!?非モテまるだしじゃん!?あっあっあっどうしよう。 「これは、お願いなのですが、もしよろしければ、わたくしのことはアイ、とお呼びいただけませんか?」 「えっ……あっ、でもでもミルヒシュトラーセ様ですし……。」 「ええ、ですがわたくしは自分の家名が苦手でして……そ、それに!この学園にはおねえさまもいますし!どっちのことか分かりづらい

  • ★毎日更新《堕胎告知》「オマエみたいなゴミ、産むんじゃなかった。」「テメェが勝手に産んだんだろ、ころすぞ。」   22. 藍と日常の出会い I meet my Daily Life.

    アイが 初めてマンソンジュ軍士官学校に登校した時は大変だった。入学式におとうさまとエレクトラ様が来てくださらないことには、もう痛めるこころもなかった。他のきょうだいのときは必ず行ったのに、とは思ったが。 シュベスターと手を繋いで入学式に|赴《おもむ》いたのだが、シュベスターは有名人らしく、とても目立ってしまった。そんな事もあって、またその|類稀《たぐい》なる可憐な容姿も原因となり、入学してからも|暫《しばら》くはアイは|高嶺《たかね》の花として遠巻きに眺められるだけだった。 そして、水面下のうちに、ファンクラブまでできて、抜け駆けしてアイに話しかけるのは厳禁とされていた。それがアイを悲しませているとも知らずに。ファンクラブの連中はアイではなく理想化したアイを見ていたのだった。だから、自らの行動が現実のアイを悲しませていても、気がつけない。 そんななか窓際で|愁《うれ》いを帯びた美しい横顔を描いていたアイに、話しかける者がいた。その生徒の名はアルターク。アルターク・デイリーライフだ。パンドラ公国の田舎の農家の出で、第一の性は女、第二の性は|人間体《アニマ》だった。 彼女はこの年代の女子にありがちな特性をご多分に備えていた。つまり、甘いものが大好きで、うわさ話が大好きで、かわいいものが大好きで、かわいい人が大好きで……かわいい人を|愛《め》でるのも大好きだった。そんな彼女がアイを前にして声をかけずにいられるわけがなかった。アルタークは学校に通うため、地元を離れ都会に出てきたばかりだった。 ◇◆◇ かっっっっわいい!!!いや、え?こんなにかわいい人がいるの?都会には?うじゃうじゃ?ありえねー。都会こえー。都会の学校ではこうなの?てかここ一応軍学校だよね?え?こんなお姫様みたいな子が?戦うの?あっ、そうか!天使として戦場で傷を負った人を癒すのか!そうだ!そうに違いない!いやーあぶないあぶない勘違いするところだった。 てか私がずっと見てるから、不思議そうにこっち見てない?天使ちゃん。アッ……不思議そうな顔もかわいい……。くりくりのおめ

  • ★毎日更新《堕胎告知》「オマエみたいなゴミ、産むんじゃなかった。」「テメェが勝手に産んだんだろ、ころすぞ。」   21. 人として軸がぶれている SAD - Social Anxiety Disorder

    「はるひくんって好きな子がいるんですか?どんな子ですか?」 しらぬいさんはどこか呆れたような顔をした。 「うーん?誰だろうね?まぁしらぬいさんは敵に塩を送るような真似はしないのさ〜。とくに|意《・》|地《・》|悪《・》|で《・》|し《・》|か《・》|愛《・》|情《・》|表《・》|現《・》|で《・》|き《・》|な《・》|い《・》|よ《・》|う《・》|な《・》|お《・》|子《・》|ち《・》|ゃ《・》|ま《・》にはね〜。」 「???」 「でも気持ちも分かるんだよね〜。アイちゃんをみているとね〜。」 「みていると?」 「ドロドロに甘やかしたい気持ちと、かわいすぎていじめたい気持ちが交互に|沸《わ》き上がってくるんだよ〜」 ギラリと光る眼。 「きゃっ!」 「……なーんて冗談冗談、アイちゃん反応がかわいいから、からかいたくなっちゃうんだ〜。かわいすぎてイジメたくてなる気持ちってキュートアグレッションって言うらしいよ、|地獄《パンドラ》の言葉で。しらぬいさんの豆知識〜。」 「は、はぁ?」 「こんな話をしたのは理由があって、アイちゃんかわいいから、意地悪されたら、もしかしたらキュートアグレッションかも?って思ってあげてね〜。まぁだからといって意地悪していい理由にはなんないんだけどさ。」 「……おかあさまが、|そ《・》|う《・》だったらよかったんですけどね……。」 「あちゃ~、そっちいっちゃったか〜」 「そっち??」 「まあまあ、そんなことより、今はアイちゃんを無事に送り届けるという任務中だからね!真剣にいかないと!」

  • ★毎日更新《堕胎告知》「オマエみたいなゴミ、産むんじゃなかった。」「テメェが勝手に産んだんだろ、ころすぞ。」   20. 姉と海 The Old Sister and the Sea

    ぎゅっと抱きしめられる、あたたかい体温が伝わってくる、差別をする人間にだってあたたかく赤い血が流れているのだった。 だから、わたくしは―― 「おねえさまは、大人ですね、わたくしにはとても、そのように考えるのは難しいです。」 「私は大人なんじゃない。ただこの両の手で守れるものには限りがあるということを知っているだけだ。 人間誰しも自分の理想の世界を生きたいものだ。だが、初めて親の庇護下を離れ家から出て、公園で遊んだときに、皆思い知るんだ。外の世界にはどうしようもない理不尽があって、自分の力じゃあどうにもできないことが確かにあるんだとな。 それはもしかしたら、いつまでたっても遊具を|譲《ゆず》ってくれない年上の子に会ったとき、もしくは初めて意地悪な同級生に会ったときか、そういう時に皆気づくものだ。 あぁ、今までは両親の腕の中というやさしい楽園の中にいたんだとな。そして、これからは自分一人でやさしくない外の世界の理不尽と向き合っていかなくちゃあならないとな。」 「そう、ですね……。」 わたくしは、両親の腕でできたやさしい楽園なんかにいたことはない。産まれてから一度だって。 「そうしてみんな自分のわがままや理想が通じない世界、学校や公園に出たときにそれぞれの生き方を選ぶんだ。 ある者はいじめっ子や先生に|媚《こ》びへつらい、理不尽に対しておもねることで生きていこうとし、またある者は他者や目上の人間に反発し、理不尽と戦うことで生きていこうとする。 どっちが正解かなんてのは分からない。社会にでてもそうだろう、媚びへつらう相手が上司や客に変わるだけだ。」 「おねえさまは人生の理不尽との、どんな付き合い方を選んだんですか?」 「私の場合は、家族や友と、それ以外だ。つまりいくらでも理不尽は受け入れるが、それが私の家族……お前やお

  • ★毎日更新《堕胎告知》「オマエみたいなゴミ、産むんじゃなかった。」「テメェが勝手に産んだんだろ、ころすぞ。」   19. エルサレムのシュベスター A Report on the Banality of Evil

    「――ほう?……詳しく聞かせてもらおうか?誰が……何だって?」 空気が凍った。今までわたくしを取り囲んでいた風紀委員さんたちがギギギと音を立て、後ろを振り返る。どうやらいつの間にか委員長の机の横の扉から入ってきていたらしい。へー、あんなところにも入り口があったんだー、とのんきに考えていると、委員のみなさんが必死で言い訳を始めた。 「いやー!だからこそ違反の抑止力になるっていうか!」 「ほんとそれ!それすぎるわ!」 「いつも助かってます!さすが委員長!!よっ!」 「逆にね!?いい意味で鬼なんだよなー!な!」 「そう逆に!!いい意味で鬼畜なんだよなー!」 「やっぱ委員長はすげぇや!」 「っぱ、ちがうなー!」 「それなー!それすぎるわ!!」 紅茶を|啜《すす》りながらそれを眺める。 「ふん……まぁ、オマエらの説教は後回しだ。」 「「「そんな!」」」 ふとおねえさまがわたくしを視界に|捉《とら》える。すると打って変わってふっとやさしく微笑む。……なんだかうれしくなる。 「アイ……!来ていたんだな。こんなところに。コイツらはお前の教育に悪いからな、あまり会わせたくなかったんだが……。」 「あの、一応うちら秩序を守る風紀委員なんすけど……。」 「教育にバリバリいいんすけど……。」 「むしろうち等が教科書まであるんすけど……。」 「しかし、登下校以外でもお前に会えるとは……。」

  • ★毎日更新《堕胎告知》「オマエみたいなゴミ、産むんじゃなかった。」「テメェが勝手に産んだんだろ、ころすぞ。」   18.いちばんにこころに浮かぶ人 the Great Schwester

    マンソンジュ軍士官学校での日々は概ね順調だった。 朝はおねえさまが一緒に登校して下さるし――|流石《さすが》に手を繋いでいるのを知人友人に見られるのは少し|面映《おまは》ゆかったが、おねえさまたっての希望なので|無下《むげ》にできなかった――、クラスのお友達はみんなやさしいし――アルタークちゃんという特別仲良しな子までできた――かげろうと一緒の学び|舎《や》で過ごせるし、一見いいことばかりだった。 全てにおいて優秀な|獣神体《アニムス》のフリをして学校に通う事には不安もあったが、座学は、もともと学ぶことや知ることが好きだったので、学年で一番をキープできている。|心《ヘルツ》の授業でも、|こころをもつもの《プシュケー》の能力を使ってなんとか|獣神体《アニムス》並みのパフォーマンスを発揮できている。 一番問題があるのは体術の授業で、|人間体《アニマ》であることもあり、力もノーマルの幼子より弱いわたくしは、こればかりはごまかしがきかないのでどうしようかと頭を悩ませていたが、|幸《さいわ》い他の部分の成績でカバーできているらしく、筋力や|膂力《りょりょく》のない、力の弱い|獣神体《アニムス》であると思われることで、なんとか助かった。 当初は力の弱い|獣神体《アニムス》などいるわけがないという者もいたらしかったが、座学と|心《ヘルツ》で優秀な成績をのこしていること、また何より、ミルヒシュトラーセ家の一員である自分が|獣神体《アニムス》でないわけがないという結論に落ち着いたらしい。 正直今まで家の名に苦しめられることはあっても、助けられることはないと思っていたので驚いた。もしかしたら、今までも自分でも|知《・》|ら《・》|ず《・》|知《・》|ら《・》|ず《・》|の《・》|う《・》|ち《・》|に《・》|ミ《・》|ル《・》|ヒ《・》|シ《・》|ュ《・》|ト《・》|ラ《・》|ー《・》|セ《・》|と《・》|い《・》|う《・》|名《・》|に《・》|助《・》|け《・》|ら《・》|れ《・》|て《・》|き《・》|た《・》|の《・》|か《・》|も《・》|し《・》

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